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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)63号 判決

主文

一  被告エー・シー・イー・インターナショナル株式会社、同高橋淳介、同飯村芳雄は、原告栗崎幸治に対し、連帯して金三九四〇万円及びこれに対する被告エー・シー・イー・インターナショナル株式会社、同高橋淳介は昭和五九年一〇月二三日から、被告飯村芳雄は昭和六〇年一月二二日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山田通夫は、原告栗崎に対し、前項の被告らと連帯して前項の内金三七三〇万円及びこれに対する昭和五九年一〇月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告栗崎幸治の被告らに対するその余の本訴請求をいずれも棄却する。

四  被告エー・シー・イー・インターナショナル株式会社、同高橋淳介、同飯村芳雄は、原告阿部光子に対し、連帯して金四一三九万五一六八円及びこれに対する被告エー・シー・イー・インターナショナル株式会社、同高橋淳介は昭和五九年一〇月二三日から、被告飯村芳雄は昭和六〇年一月二二日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告阿部光子の被告山田通夫に対する本訴請求及び被告エー・シー・イー・インターナショナル株式会社、同高橋淳介、同飯村芳雄に対するその余の本訴請求をいずれも棄却する。

六  被告エー・シー・イー・インターナショナル株式会社の反訴請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用は、本訴反訴を通じて、原告栗崎幸治と被告エー・シー・イー・インターナショナル株式会社、同高橋淳介、同山田通夫、同飯村芳雄との間に生じた分は、その二〇分の一を同原告の負担とし、その余は右被告らの負担とし、

原告阿部光子と被告エー・シー・イー・インターナショナル株式会社、同高橋淳介、同飯村芳雄との間に生じた分は、その二〇分の一を同原告の負担とし、その余は右被告らの負担とし、

原告阿部光子と被告山田通夫との間に生じた分は全部同原告の負担とする。

八  この判決は、一、二、四項は仮に執行することができる。

理由

(本訴請求について)

一  当事者

請求原因事実1は被告山田、同飯村が現に被告会社の社員である点を除き、当事者間に争いがない。

二  原告らの被告会社に対する商品取引の委託

請求原因事実2は、本件(一)ないし(四)取引の経緯を除き、当事者間に争いがない。

三  被告らと被告会社における商品取引の受託業務執行の実情

《証拠略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告会社は、昭和五五年一二月設立以来、その目的とする先物取引の受託業務は米国の商品取引所における上場商品を対象とし、右受託業務の執行と情報収集のため、昭和五六年九月ころ、ニューヨークに事務所を設け、社員一名を常駐させていた。被告高橋は、右会社設立後間もなく、被告会社の代表取締役に就任し、現在に至つている。

被告会社名古屋支店は、昭和五六年七月に設置され、もと名古屋市内で海外先物取引業を営んでいた株式会社アイ・シー・エスの営業設備等を、被告会社が事実上引き継ぎ、営業をするに至つている。被告山田は、もとアイ・シー・エスの社員であつたが、右名古屋支店設置により、被告会社に雇用され、昭和五七年二月には名古屋支店長になつた。被告飯村は、被告会社名古屋支店設置の直後に同支店に入社した。しかし、被告山田は昭和五七年九月三〇日、被告飯村は昭和五九年八月三一日、いずれも被告会社を退社した。なお、被告山田の後任支店長には生川哲正(以下「生川支店長」という。)が就任した。

2  本件(一)ないし(四)取引(昭和五七年から昭和五九年までの間)当時、被告会社の従業員総数は、名古屋、福岡、札幌の各支店を含め約一〇〇名であつて、名古屋支店には少なくとも一四、五名が勤務していた。このうち、営業担当者は、総数で六〇ないし七〇名、名古屋支店では被告山田、同飯村を含む約一〇名であつた。右営業担当者の給与は、固定給のほかに歩合給が支給されていた。当時の歩合給は、(1)新規に先物取引の受託契約を締結したとき、一万円ないし一万五〇〇〇円、(2)顧客から建玉の枚数に比例して預託を受ける保証金につき、その二ないし三パーセント、(3)顧客から徴収の委託手数料につき、その五ないし八パーセントの三本立てになつていた。

3  本件(一)ないし(四)取引当時、被告会社における先物取引の受託業務の執行は、大体次のように行われていた。

(一) 米国の商品取引所の立会時間は、日本時間の夜一一時ころに始まるため、被告会社の営業担当は、右立会前に顧客との間で、ロンドンで始まつている相場の動きなどを参考にしながら、米国の相場変動を予測して打ち合わせをしておき、取引を勧誘し顧客の注文を受ける。被告会社名古屋支店の顧客の注文、後記の売買成立通知等は、通常、被告会社本社を通じて行われていた。

(二) 右注文は、被告会社が電信等により米国のFCMに一括して取り次ぎ、FCMは、直ちにこれを商品取引所における商品市場のフロア・ブローカーに発注する(被告会社が注文をFCMに取り次ぎ、FCMがこれをフロア・ブローカーに発注していたことは当事者間に争いがない。)。

右商品取引所は、顧客から注文の売買商品によつて異なつていた。すなわち、注文商品が、コーヒー、シュガーのときはコーヒー・シュガーアンドココア・エクスチェンジ、ゴールド、シルバーのときはコメックス、プラチナのときはニューヨーク・マーカンタイルの取引所であつた。

また、被告会社が取り次いでいたFCMは、昭和五七年当時がサンフランシスコのエース、昭和五八年一月当時がニューヨークのアクリ、昭和五八年一月下旬から同年六月まで当時が同じくニューヨークのシンクレア、昭和五八年一一月から昭和五九年一月まで当時がシカゴのストットラー・アンド・カンパニー(以下「ストットラー」という。)であつた(被告会社が取り次いでいたFCMにエース、シンクレアがあつたことは当事者間に争いがない。)。

エースは、フロア・ブローカーとしてパトリック・リガマリー(以下「リガマリー」という。)を派遣していた。ところが、リガマリーは、その後、エースからシンクレアのフロア・ブローカーに移籍した。被告会社は、このようにリガマリーの移籍とエースのサンフランシスコよりシンクレアのニューヨークの方が情報収集にも便利であることから、昭和五七年一月、FCMをエースからシンクレアに変えた。

米国における商品取引の監督機関である商品先物取引委員会(CFTC)は、平成元年一〇月一〇日、リガマリーを商品取引所法違反で訴追している。その訴追内容は、日本の海外先物取引業者がFCMのバリフォア・マクリーン・フューチャー・インク及びそのフロア・ブローカーのリガマリーと共謀の上、右日本業者からの注文について、売玉と買玉を同一値段、同数量で執行し、仮装売買をしたものというにある。

いずれにしても、本件(一)ないし(四)取引当時、被告会社は、顧客注文の売買玉に対応する同数量の自己玉を建てていたほか、先物取引の受託業務に関し、特別に付き合いのある関係者が四、五名いて、同人らには例えば、顧客注文の買玉一〇枚を入れたことを連絡して、これとは逆の売玉一〇枚を建ててもらいたいと依頼し、これを建ててもらうことができた。

(三) フロア・ブローカーは、注文どおりの売買が成立すると、直ちにその成立内容をFCM及び清算会社に報告する。これをFCMは、電信等により、被告会社に、被告会社は顧客に順次通知し、結局、顧客には、注文を出した翌朝、その結果が知らされる(注文の結果がFCM、被告会社、顧客に順次通知されることは当事者間に争いがない。)。なお、米国における先物取引の執行方法は原告ら主張のようなザラバ方式を採用している(この点当事者間に争いがない。)。

(四) 被告会社は、顧客から預託を受けた保証金、取引による差損金等の入金及び顧客の取引による差益金、取引終了による保証金等の出金のため、FCMないし清算会社(アクリ、シンクレア、ストットラーは清算会社でもあつた。)に被告会社名義によるオムニバス・アカウント(総合口座)を設け、顧客別ではなく、これをトータルした被告会社全体の取引について、日々、これを決済していた(被告会社がオムニバス・アカウントを設けていたことは当事者間に争いがない。)。なお、被告会社がFCMに注文を取り次ぐにあたつて支払つていた手数料は、被告会社が顧客から徴収の手数料のおよそ一〇分の一であつた。

四  原告栗崎の本件(一)(二)取引の経緯と態様

証拠を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告飯村は、昭和五七年二月ころ、アイ・シー・エスから引き継ぎのダイレクトメール「あなたとお金の相性テスト」についての原告栗崎の回答から、同原告の電話番号を知り、「うまいもうけ話がある。話だけでも聞いてほしい。」と電話した。その後も、数回にわたり、同様の電話を架けたものの、反応がなかつたので、飛び込みで同原告の歯科医院を訪ねた上、「何回も電話をした者だが、ちよつと話を聞いてもらいたい。」「資産を安全有利に運用できる方法がある。」「一度やつてみないか。」などと言つて勧誘した。その後も、被告飯村は、数回、同じく原告栗崎を訪ね、米国財務省証券の買入れを勧めるとともに、これを保証金代りにして、米国の商品取引所における先物取引の勧誘をした。しかし、原告栗崎は、もともと先物取引に関する知識も経験も全くなく、これをよく理解できなかつたため、これに応じなかつた。ところが、被告飯村は、「私の顔を立て、会社に行つてくれ。」「会社で説明を聞いて、断りたかつたら断ればよい。」などと言つて、なおも執ように勧誘した。そのため、原告栗崎は、根負けし、被告飯村に連れられて被告会社名古屋支店に赴いた。原告栗崎は、同支店で、被告山田から国際情勢や国際社会における日本の活躍などの説明を受けた上、「うちの会社で扱つている米国の財務省証券をやつたらどうか。」と勧められたが、その確答を避けた。原告栗崎は、その後も二回にわたり、被告飯村に連れられて被告会社名古屋支店に赴き、被告山田から米国の債券が安全有利であるとし、その買入れを勧誘されるに及んで、買うこと自体これを承諾した。ところが、その直後、原告栗崎は、被告飯村あるいは被告山田から、「今買うのが時期的に大へんよい。」旨強く言われたので、再び被告会社名古屋支店を訪れた。その際、被告山田は、「米国の財務省証券を買うならば一〇〇〇万円単位でないとだめだ。」と言い、さらに「ほかにいい方法があるから任せてくれ。」と言つて、先物取引の話に変つていつた。被告山田は、「絶対もうかる。」と強調した上、「お金を投資してくれれば、私ども専門家が運用する。信用してもらいたい。」などと言つてこれを勧誘した。原告栗崎は、これまでの説明等で、先物取引の全容を理解したわけではなかつたものの、被告会社の先物取引が信用できてもうかるものと誤信するに至つた。

2  かくて、原告栗崎は、海外先物市場における商品の相場変動による差益金を獲得するため、昭和五七年三月四日、被告会社名古屋支店を訪れ、売買取引委託契約書、リスク開始告知書に署名押印の上、これを被告会社に差し入れ、保証金八〇万円を被告会社に預託し、被告山田ないし被告飯村に勧められるまま本件(一)取引1の買付をした(原告栗崎がその主張日時右契約書、告知書を被告会社に差し入れ保証金八〇万円を預託したことは当事者間に争いがない。)。

右契約書には、原告栗崎が次の約定を承諾し、外国商品取引所における上場商品の売買取引を被告会社に委託するとし、次のような記載がある。(1)受託者(被告会社)は委託者(原告栗崎)の注文に基づく商品の売買取引を行うものとし、委託者は、右売買取引が外国商品取引所の定める定款、諸規則、約款及び商取引慣習、慣例に従つて行うことを承諾する(一条)、(2)委託者は、売買取引の注文をするについて、その都度、商品取引所名及び商品の種類、限月、売付又は買付の区別、新規又は仕切の区別、数量、成行又は指値の区別、売買を行う日等を明確に指示しなければならず(二条)、(3)委託者は、売買取引を委託するについて、受託者に担保として別に定める委託保証金を預託しなければならない(三条)とし、別に定めた委託保証金細則には、委託保証金を委託基本保証金(以下「本証」という。)、委託追加保証金(以下「追証」という。)、委託臨時保証金とし、追証は、委託した売買取引が、その後の相場の変動によつて損計算となり、かつ、その損計算の額が、その売買取引について預託された本証の二五パーセント相当額以上となつた場合に委託者が預託しなければならず、その金額は損計算額の全額とし、受託者から請求があつた場合、その翌営業日の午後二時までに預託するものとし、また、委託保証金は、売買取引の終了等により預託の必要がなくなつた場合、委託者からの請求により何時でも返還するとし、(4)受託者は、委託を受けた売買取引が成立したときは、速やかに書面をもつて、成立値段、成立年月日など前記(2)の注文指示事項とほぼ同じ内容を委託者に通知し(四条)、(5)委託者は、右通知の内容に異議があるときは、通知を受けた日から三営業日以内に書面をもつて、異議の内容を受託者に申し出なければならないとし(五条)、(6)委託者は、自らの責任と判断に従つて売買取引を行うものとし、受託者は、商品相場の変動及び通貨為替相場の変動に伴う損失等について一切責任を負わない(六条)、(7)この契約に基づく売買取引に関し、万一委託者と受託者との間に紛議が生じたときは、国内の法令、商取引慣習に従つて解決するものとする(一一条)など記載されている。また、右告知書には、米国商品先物取引委員会規定1.55の要求事項に基づき、この説明書を提示するものとし、先物取引市場における建玉に関し、受託業者に差し入れたすべての保証金が損失につながることもあるなど、先物取引による損失発生の危険性ないし注意を喚起する趣旨の記載があり、かつ、原告栗崎がこの告知書を受領し、その説明も理解した旨記載されている。

被告会社は、そのころ、原告栗崎あてに本件(一)取引1の成立内容について書面による所定の報告をした。これに対し、原告栗崎はなんら異議を申し出たことがなかつた。

3  原告栗崎は、同年三月一六日、被告山田、同飯村の訪問を受け、同人らから「最初に投資したお金が全部パーになる。それを取り返すため、ある程度のお金を用意してもらえれば、三か月間で倍にして返す。」旨言われた。原告栗崎は、先物取引がもうかるものと信じていただけにこれに驚いたが、被告山田から、「一〇〇〇万円くらい入れるなら、こういつたことにはならない。」と言われたため、最初の本証八〇万円を取り戻すため、改めて本証一〇〇〇万円を被告会社に預託し、被告山田の勧めに従つて先物取引をした(原告栗崎が右日時に保証金一〇〇〇万円を被告会社に預託したことは当事者間に争いがない。)。

そこで、被告会社は、本件(一)取引2、3の買付をし、前同様、その旨を原告栗崎あてに報告したが、異議の申出はなかつた。

4  その後も、原告栗崎は、前同様、被告山田から「これまで投資のお金が全部パーになる。」などと言われ、同被告ないし中川に勧められるまま、保証金として、同年三月二九日一〇〇万円、同年四月一五日一四〇万円、同年五月二八日三〇〇万円、同年六月八日四〇〇万円、同月一一日五〇〇万円、同年七月一二日一〇〇〇万円、同年一二月一六日三〇〇万円を順次預託した上、本件(一)取引の4ないし58の売付又は買付をし、それらの仕切をした。中川は、被告会社本社の法人部長であつたが、同年六月中旬以降、被告山田とともに原告栗崎を担当するようになり、被告山田退社後の同年一〇月一日以降は、原告栗崎の主たる担当者として右取引を勧誘した(最終の預託金三〇〇万円を除き、原告栗崎が右各日時、各保証金を被告会社に預託したことは当事者間に争いがない。)。

原告栗崎の被告会社に預託の保証金は、以上のほか、本件(一)取引による帳尻から、同年五月二七日一四一万五六八九円、同年七月七日八万六一三四円、同月八日五七万一六一八円、同年八月五日二〇二万九五六二円、同月六日五九万九七一〇円、同月二三日三六八万三二二五円、同年九月二二日二一七〇万二〇六八円、同年一〇月四日三一七万二四三七円、同年一二月二日五〇七万三五五〇円、同月七日六〇一万九二二〇円、同月八日一六九七万二一一二円、昭和五八年一月二五日四六二万九五八一円を繰り入れた。他方、右保証金は、本件(一)取引による帳尻へ、同年六月一〇日一二二〇万五九八五円、同年九月二四日三七八万七六〇〇円、同月二八日三六三万四二七四円、同年一〇月八日一一三一万一五六二円、同月二〇日一二三九万九三二五円、同月二一日六四〇万二二六五円、同月二二日六〇四万二七七一円、同年一一月二九日一五三万〇九二〇円、同年一二月一四日一三三六万六二七五円、同月一六日一八五二万六五〇五円返戻された。

いずれにしても、被告会社は、右取引についても、その都度成立内容を原告栗崎あてに書面で報告するとともにその確認を求め、かつ、毎月一回、建玉残高及び値洗差損益金の明細を記載の建玉残高照合書を同原告あてに送付し、その回答を求めていた。これに対し、原告栗崎は、右報告を確認し、なんら異議を申し出たことがなく、建玉残高照合書についてもこれに相違ない旨の回答書を被告会社あてに送付していた。

5  原告栗崎は、昭和五七年九月ころ、中川からの電話で「五〇〇〇万円の利益が出た。」旨の連絡を受けたので、「取引をすべて終了させ、清算の上、利益金を支払つてもらいたい。」旨要請した。これに対し、中川は、「清算することはよいが、名古屋支店扱いの取引であるから、清算は支店長の被告山田に申し出てもらいたい。」旨返答した。そこで、原告栗崎は、被告山田に電話を架け、取引の終了と清算を求めた。ところが、被告山田は、「今は値上がりの時期で、利益は一億円にして返すから、取引を継続してもらいたい。」旨繰り返してこれに応じず、通話途中で一方的に電話を切つてしまつた。原告栗崎は、これに立腹し、中川に電話を架け、再び取引の終了を求めたが、これにも応じてもらえなかつた。そして、原告栗崎は、その翌日ころ、中川及び被告山田の訪問を受け、同人らに土下座されて「一億円にして返すので、取引を続けてもらいたい。」旨懇願された。そのため、原告栗崎は、中川らに勧められるまま本件(一)取引12ないし21の買玉を同月一四日までに仕切つてもらつたものの、それ以上に手立てを知らず、同月一四日から翌一五日にかけ、同じく勧められて本件(一)取引23ないし26の1、2の売建てをし、取引の終了を断念するほかなかつた。

被告山田は、被告会社を退職後の昭和五八年二月ころ、訪問販売で原告栗崎を訪ねた際、右のように取引終了の要請を拒んだ事情について、「被告会社の上司から言われたため、応じることができなかつた。」旨弁明した。

原告栗崎は、昭和五七年一二月ころ、中川から、「四〇〇〇万円の利益が出た。」旨の電話連絡を受け、その際も取引の終了を求めたが、応じてもらえず、前同様中川に勧められるまま本件(一)取引34ないし41の買玉を同月七日までに仕切つてもらつたものの、同月七日、翌八日の両日に本件(一)取引42の1ないし4、43の買建てをせざるを得なかつた。もつとも、原告栗崎は、昭和五八年一月二五日、被告会社から本件(一)取引による利益金三〇〇万円の支払を受けた。

6  原告栗崎は、本件(一)取引をするについて、初めてのことでもあつて、実際は、複雑な先物取引の仕組みを必ずしも理解していたわけではなく、もちろん米国における先物取引の実情、商品相場の動向等も全くわからなかつたので、被告飯村、同山田らを信用して頼るしかなく、事実上、同被告らに任せるほかなかつた。本件(一)取引は、後記本件(二)取引も含め、書類上、一応、原告栗崎の意思に基づく取引として、なんら異議もないものとして確認され、その形式は整つているものの、その実態は、被告飯村、同山田ないし中川らに勧められるまま商品を売買し、つまり、どのような商品をどれだけ売建て又は買建てするか、これらを仕切るかどうかは同人らの勧めに従い、前記4の保証金も同被告らに指示されるまま預託したものであり、いわば、同被告らによつて操作されたも同然であつた。

別紙取引一覧表(一)(二)記載のような取引と前記4のような保証金の預託ないし帳尻からの保証金繰り入れからも明らかなとおり、差損金が出たとき保証金が預託されることは当然としても、差益金は原告栗崎に交付されることなく、ほとんど保証金に繰り入れられて建玉を増やし、もつて急速に取引を拡大し、前記5のように取引を終了させることなく、これを継続させた。また、本件(一)取引8ないし22の買建てのように、いずれも差益金が出ている建玉を格別理由もなく短期間で仕切つて買建てを繰り返し、その上、このような差益金が出ていた買玉を、これも格別理由もなく一挙にすべて仕切つて本件(一)取引23ないし27の売建てをしている。さらに、本件(一)取引34ないし41も、同じく買建てを短期間で仕切つて買建てを繰り返している。のみならず、ザラバ方式では、通常、数量、値段も同一の向い玉はほとんどあり得ないとされているのに、被告会社が顧客の注文をFCMのアクリ、シンクレア、ストットラーに取り次ぐようになつてからは、ほとんどの場合、売買玉に対応して同数量、同一値段の反対玉が建てられるに至つている。原告栗崎の本件(一)取引45ないし58、本件(二)取引についても、売買玉の数量、値段が全く同一の反対玉が建てられている。特に、本件(一)取引45の買玉仕切の昭和五八年一月一四日、本件(一)取引56の買玉仕切の同年二月一七日、本件(一)取引57-1の買玉仕切の同月二四日、本件(二)取引3の買玉仕切の同年六月一六日における被告会社がFCMに各取り次ぎの取引は、すべて売買玉に対応して数量、値段が全く同一の反対玉が建てられている。

7  原告栗崎は、昭和五八年二月下旬、シルバーの価格暴落により大きな損失を被つたため、同年三月一日、被告会社本社を訪れ、中川に対応策を相談した。これに対し、中川は、「栗崎さんの赤字分は棚上げしておくので、心配しなくともよい。」「赤字分を棚上げしたのだから、今度は娘さんの名義で、一〇〇万円でも一五〇万円でもやつてもらいたい。」と娘名義による取引を勧めた。

そこで、原告栗崎は、同日、勧められるまま娘の敬子(昭和四一年二月二四日生)名義で、前記四2と同じく売買取引委託契約書、リスク開示告知書に署名押印の上、これを被告会社に差し入れ、改めて敬子名義による先物取引を委託し、保証金二〇〇万円を被告会社に預託した(原告栗崎が、被告会社に右契約書、告知書を差し入れ、保証金二〇〇万円を預託したことは当事者間に争いがない。)。

原告栗崎の右敬子名義による取引は、別紙取引一覧表(二)記載のとおりの本件(二)取引であつて、前同様の方法で行われたが、結局、五二六五円の清算損を出した。被告会社は、昭和五九年二月二九日、原告栗崎から右清算損の支払を受けた。かくて、原告栗崎の敬子名義による本件(二)取引は終了した。

8  しかし、本件(一)取引については、昭和五八年三月一七日現在一五八四万一六〇〇円の清算損を出した。原告栗崎は、以来同年七月まで、毎月被告会社から右清算損を記載の建玉残高照合書の送付を受け、これに相違ない旨の回答をしているが、まだこれを支払つていない。

五  原告阿部の本件(三)(四)取引の経緯と態様

証拠を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告飯村は、昭和五七年五月ころ、さきに勧誘の原告栗崎の近くで同じく歯科医院を経営の原告阿部に、再三電話を架け、「一度会つてお話したい。」旨申し入れたが、いつもこれを断わられていた。そのため、被告飯村は、飛び込みで原告阿部の歯科医院を数回訪ねたが、やはり断わられていた。ところが、同年六月末ころ、原告阿部を訪ねた際、ようやく原告阿部に話を聞いてもらうことができた。被告飯村は、被告会社のパンフレットを見せながら、「金とか銀とかを買つてもうけないか。必ずもうかる。」などと勧誘したが、断わられた。その後も何度か訪問したが、やはり同じであつた。しかし、被告飯村は、同年九月ころ、原告阿部を訪ね、「同業の栗崎先生は五〇〇〇万円ほどもうけている。」「今度、うちの社長も歯科医師の会合で講演を頼まれている。聞いてみてください。講演を頼まれるほどだから間違いがない。」などと言つて被告会社の先物取引を勧誘した(原告阿部が被告飯村から先物取引の勧誘を受けたことは当事者間に争いがない。)。そのため、原告阿部は、被告会社が信用できる会社で、先物取引がもうかるものと誤信するに至つた。

2  かくて、原告阿部は、海外先物市場における商品の相場変動による差益金を獲得するため、昭和五七年一〇月一日ころ、前記四2のような記載がある売買取引委託契約書、リスク開示告知書に署名押印の上、これを被告会社に差し入れて先物取引を委託した(原告阿部が右契約書、告知書を被告会社に差し入れ、先物取引を委託したことは当事者間に争いがない。)。

そして、原告阿部は、右取引の保証金(現金のほか、純金、パラジウムを含む。後者については、これが換金されて被告会社に入金された日、換金額による。)として、同年一〇月一日一〇〇万円、同月二一日一〇二万四〇一四円、同月二七日一四〇万円、同年一一月二二日二四〇万円、同年一二月八日一〇〇万円、昭和五八年二月七日二三六万二一五四円、同月二五日二一一〇万九〇〇〇円を順次被告会社に預託し(この点当事者間に争いがない。)、本件(三)取引をするに至つた。

原告阿部が被告会社に預託の保証金は、以上のほか、本件(三)取引による帳尻から、昭和五七年一〇月二〇日三七万五九八六円、昭和五八年一月二五日二八五万六一七一円、同月三一日六七万四九八八円が繰り入れられた。他方、右保証金は、本件(三)取引による帳尻へ、昭和五八年一月一〇日一〇九万三三一三円、同年三月一七日三三一〇万九〇〇〇円返戻されている。

生川支店長は、本件(三)取引が始まつて間もなくの昭和五七年一〇月一四日、原告阿部を訪ねてアンケート調査をした。すなわち、生川支店長は、被告会社所定の先物取引に関する質問事項一三項目に肯定と否定の回答を記載の「新規口座アンケートのお願い」と題する書面に基づき、原告阿部に直接質問し、その回答を同書面の回答欄に丸じるしを付けた。その結果によると、原告阿部は、海外先物取引には益もあるが、損もあることは知つているとし、また、商品取引の仕組み、リスク開示の社員説明は理解したとされている。

いずれにしても、原告阿部は、本件(三)取引につき、被告会社から、取引の都度、書面による所定の報告とともにその確認を求められ、かつ、毎月一回、建玉残高照合書の送付を受けていたが、ときには開封することなく放置したまま右報告を確認し、建玉残高照合書についても、これに相違ない旨回答し、なんら異議を申し出たことはなかつた。

3  原告阿部は、昭和五八年三月一日ころ、被告飯村から、「銀が暴落して大きな損が出ている。」との報告を受けた。同日現在における原告阿部の帳尻損は五九九〇万三一三〇円に達していた。原告阿部は、驚いて被告会社本社に電話を架け、その後間もなく、中川から「損失については社長に相談してもらいたい。」旨の連絡を受けたので、そのころ、再び被告会社本社に電話を架けた。同電話に出た被告高橋は、「二〇〇〇万円をつくつてくれ。」と言い、また、「今度は私が、現地の人から、直接情報をもらつて、必ず挽回する。」「一五〇〇万円でいいからつくつてもらいたい。」「あなたの方は損が出たから、取り返すのにあなたの名前を使えない。息子の名前で取り返させてくれ。」などと原告阿部の息子名義による取引を勧めた。

そこで、原告阿部は、被告会社の社長である被告高橋の言うことで間違いがないものと信じ、前記損失を取り戻したい一心から、改めて息子博行名義で被告会社に先物取引を委託することとした。そして、昭和五八年三月八日、前記2と同じ売買取引委託契約書、リスク開示告知書に博行名義をもつて署名押印し、これを被告会社に差し入れた(原告阿部が右契約書、告知書を被告会社に差し入れ、先物取引を委託したことは当事者間に争いがない。)。

そして、原告阿部は、右取引の保証金として、同年三月八日五〇〇万円、同年五月三一日五〇万円、同年八月三〇日三三〇万円を順次被告会社に預託し(この点当事者間に争いがない。)、本件(四)取引をするに至つた。

原告阿部が博行名義で被告会社に預託の保証金は、以上のほか、本件(四)取引による帳尻から、同年四月一三日一四二万五四七一円、同年五月六日八八万二九八二円、同月一〇日一二一万三九七五円、同年九月一四日九万九四四二円が繰り入れられた。他方、右保証金は、本件(四)取引による帳尻へ、昭和五八年九月一四日五六一万一八六五円、昭和五九年四月一三日六八一万〇〇〇五円返戻されている。

生川支店長は、本件(四)取引が始まつて間もなくの昭和五八年三月二三日、原告阿部を訪ね、前記2と同じくアンケート調査をし、同人から同じような回答を得た。

いずれにしても、原告阿部は、本件(四)取引についても、前記2と同じく、被告会社から、取引都度送付を受けた書面による報告を確認し、毎月一回の建玉残高照合書にも相違ない旨回答し、なんら異議を申し出たことはなかつた。

4  原告阿部は、本件(三)(四)取引をするについて、原告栗崎同様、初めてのことでもあつて、実際は、複雑な先物取引の仕組みを必ずしも理解していたわけではなく、もちろん米国における先物取引の実情、相場の動向等も全くわからなかつたので、被告飯村ないし被告高橋らを信用して頼るしかなく、事実上、同被告らに任せるほかなかつた。本件(三)(四)取引は、書類上、一応、原告阿部の意思に基づく取引として、なんら異議もないものとして確認され、その形式は整つているものの、その実態は、被告飯村ないし被告高橋らに勧められるまま商品を売買し、つまり、どのような商品をどれだけ売建て又は買建てするか、これらを仕切るかどうかも同被告らの勧めに従い、前記2、3の保証金も、同被告らに指示されるまま預託し、特に本件(三)取引が順調に利益を上げていたときでも、被告飯村から「損が出たのでお金が必要だ。」と言われると、これに従つて預託した。いわば、原告阿部の本件(三)(四)取引は、被告飯村ないし被告高橋に操られていたも同然であつた。

別紙取引一覧表(三)(四)記載のような取引明細と前記2、3のような保証金の預託ないし帳尻からの保証金繰り入れからも明らかなとおり、差損金が出たとき保証金が預託されることは当然としても、差益金は原告阿部に交付されることなく、すべて保証金に繰り入れられて常に保証金残高一杯ないしそれ以上に建玉を増やした。また、本件(四)取引5の買建てのように差益金が出ているシルバーの建玉を、格別理由もなく短期間で仕切つて、これをゴールドの買建てをしている。のみならず、前記四6と同じく被告会社が顧客の注文をFCMのアクリ、シンクレア、ストットラーに取り次ぐようになつてからは、ほとんど売買玉に対応して同数量、同一値段の反対玉が建てられている。原告阿部の本件(三)取引6ないし11(ただし、6は仕切のみ)、本件(四)取引についても、ほとんど売買玉の数量、値段が全く同一の反対玉が建てられている。特に、本件(四)取引1買建ての昭和五八年三月二九日、本件(四)取引2の買玉仕切の同年四月一二日、本件(四)取引8の売玉仕切の同年七月七日から同年八月四日までの一〇日間における被告会社がFCMに各取り次ぎの取引は、すべて売買玉に対応して数量、値段が全く同一の反対玉が建てられている。

5  原告阿部は、本件(三)取引につき、昭和五八年三月一七日現在二三四一万九五九二円の清算損を出し、本件(四)取引についても、昭和五九年四月一三日現在二万二〇五七円の清算損を出した。原告阿部は、本件(三)取引につき昭和五八年三月以降、本件(四)取引につき昭和五九年四月以降、毎月、被告会社から右清算損を記載の建玉残高照合書の送付を受け、前者の清算額については、昭和五八年八月、これに相違ない旨被告会社に回答しているが、まだこれを支払つていない。

六  本件(一)ないし(四)取引の違法性

以上の事実によれば、被告高橋、同山田、同飯村及び中川ら被告会社従業員の原告らに対する海外先物取引の勧誘から取引終了に至るまでの行為全体を総合的に観察するならば、本件(一)ないし(四)取引は、巧妙な手口に基づくいわゆる客殺しの詐欺的商法として違法というべきである。すなわち、被告高橋は被告会社の代表取締役、中川は被告会社の法人部長として、被告山田は被告会社名古屋支店長、被告飯村は同営業部主任として、被告会社の米国における先物取引の受託業務につき、相互に一定の役割を分担しつつ共同して、被告飯村において、原告らに「必ずもうかる。」旨強調の断定的判断の提供による執ような勧誘をし、そのため、原告らに被告会社の先物取引がもうかるものと誤信させ、被告会社においては、全従業員中、六、七割を占める営業担当者に固定給とともに支給される歩合給が、新規受託契約締結件数による一定額の給付及び保証金ないし手数料の多寡に応じて決まる給付の三本建てになつていることから、被告飯村、同山田及び中川らにおいて、原告らが先物取引の理解が十分でなく、同被告らを信用して任せ切りにし、もつぱら差益金の取得を目的とし、これを期待していることに乗じ、本件(一)(三)取引による差益金が出ても、原告栗崎にはほとんど、原告阿部には全く支払わず、そればかりか、「これまで投資の金がパーになる。」「損が出たので、お金が必要だ。」などと言つて保証金を増額させて取引を拡大させ、逆に差損が出たときも、言葉巧みに保証金を預託させ、あるいは前同様、有利な断定的判断を提供した上、改めて子供名義による本件(二)(四)取引でこれを継続させ、のみならず、被告会社ないし被告会社と親密な共同関係にあるものと推認される関係者名義をもつて、原告らの売買玉に対応する逆の自己玉又はこれと同視すべき建玉としての向い玉ないしこれに準ずる反対玉を建てるとともに、ころがしによる手数料かせぎをしていたものと推認され、これに加えて、本件(一)取引については手仕舞(解約)拒否等を、本件(三)(四)取引については、差益金を支払うことなく、保証金に繰り入れ、限度額一杯の建玉をする扇型建玉(利乗せ満玉)等を、いずれも組み合わせるという手口によつて受託業務を行つていたことが認められる。以上のような一連の行為全体は、被告会社が、手数料のほかに、顧客から預託を受けた保証金を人件費等の自己の用途に費消するため、向い玉(被告会社は、向い玉を建てることによつて、米国の取引所との間で損益が生じないから、FCMとの間でも保証金を預託する必要がなく、結局、顧客の保証金を手元に保持することができる。)、ないしこれに準ずる反対玉を建て、ころがしによる手数料かせぎ、手仕舞拒否、利乗せ満玉等を組み合せることによつて、保証金を自己の手元に取り込み、これを取り込むため、原告らの損失(被告会社の利益)を確定させ、これを拡大させようとしたものと推認され、いわゆる客殺しの詐欺的商法を行つていたものというほかない。

もつとも、原告らが、本件(一)ないし(四)取引につき、被告会社から、取引の都度、書面をもつてその成立内容の報告を受けてこれを確認し、毎月一回の建玉残高照合書にもこれに相違ない旨回答し、なんら異議を申し出たことがなく、しかも、取引終了による清算損も、本件(二)取引については既にこれを支払い、本件(一)(三)(四)取引についても、これに相違ない旨回答していることはさきに認定したとおりである。

しかし、これら事実も、当時、原告らが被告飯村、同山田、同高橋及び中川らにすべてを任せ切りにしていた格好で、同被告らに操られたも同然の状況にあつたことにかんがみると、右認定を左右するものではない。

よつて、被告高橋、同山田、同飯村らによる本件(一)ないし(四)取引の違法性は、その余の点を判断するまでもなく、明らかである。

七  被告らの責任

1  被告高橋、同山田、同飯村及び中川らが、前記六のとおり、共同して本件(一)ないし(四)取引について客殺しの詐欺的商法を行い、原告に後記損害を与えたのであるから、共同不法行為として民法七一九条、七〇九条による責任がある。

もつとも、被告山田は、昭和五七年九月三〇日、被告会社を退社したことは、前記三1認定のとおりであるから、原告阿部及び右退社後の原告栗崎についての損害賠償については責任がない。

2  被告会社は、被告山田、同飯村及び中川らの使用者で、同被告らが被告会社の業務執行にあたり、前記六のような違法行為により、原告に後記損害を与えたのであるから、使用者として民法七一五条一項による責任がある。

八  原告らの損害(弁護士費用は除く)。

1  原告栗崎について

(一) 原告栗崎が、現実に、本人名義及び敬子名義で被告会社に預託した保証金が、少なくとも原告主張のように合計三七二〇万円で、このうち、被告山田が関与していた昭和五七年三月四日から同年九月三〇日までの預託分が合計三五二〇万円であることは当事者間に争いがなく、原告栗崎が右預託金の返還を受けられないでいることは明らかである。

そうすると、原告栗崎が本件(一)(二)取引によつて被つた財産的損害は、三七二〇万円で、このうち、被告山田の関与分は三五二〇万円であることが認められる。

(二) 原告栗崎は、本件(一)(二)取引によつて巨額の財産的損害を被つたことにより精神的苦痛も受けたとして慰謝料二〇〇万円を請求している。

しかしながら、本来、財産上の損害は財産上の請求によつて回復されるのであるから、精神的損害の賠償は、右をもつてしても、なお回復し得ない特別の事情がある場合にのみ考慮すべきものである。ところが、本件においては、かかる特別の事情の存在を認めるに足る証拠はないから、原告栗崎の右請求は理由がない。

2  原告阿部について

(一) 原告阿部が、現実に本人名義及び博行名義で被告会社に預託した保証金が合計三九〇九万五一六八円であることは当事者間に争いがなく、原告阿部が右預託金の返還を受けられないでいることは明らかである。

そうすると、原告阿部が本件(三)(四)取引によつて被つた財産的損害は、三九〇九万五一六八円であることが認められる。

(二) 原告阿部も、原告栗崎同様慰謝料二〇〇万円の支払を求めているが、前記1(二)と同じく右請求は理由がない。

九  弁護士費用

原告栗崎、同阿部が、本件訴訟代理人弁護士らに本件訴訟の追行を委任し、報酬の支払を約したことは、弁論の全趣旨より明らかであり、本件事案の性質、審理経過、認容額等にかんがみると、原告栗崎の弁護士費用として二二〇万円を被告会社、被告高橋、同飯村に、内金二一〇万円を被告山田に、原告阿部の弁護士費用として二三〇万円を被告会社、被告高橋、同飯村にそれぞれ負担させるのが相当である。

一〇  結論

以上のとおりで、被告会社、同高橋、同飯村は、原告栗崎に対し、連帯して前記八1の三七二〇万円と九の二二〇万円の合計三九四〇万円、被告山田は、原告栗崎に対し、右被告らと連帯して、前記八1の三五二〇万円と九の二一〇万円の合計三七三〇万円、被告会社、同高橋、同飯村は、原告阿部に対し、連帯して前記八2と九の合計四一三九万五一六八円及び被告会社、同高橋はこれらに対する昭和五九年一〇月二三日から、被告山田はこれらに対する昭和五九年一〇月二五日から、被告飯村はこれらに対する昭和六〇年一月二二日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金(遅延損害金の右起算点は、本件不法行為後の本訴状送達の日の翌日である。)を支払う義務がある。

(反訴請求について)

一  請求原因

請求原因1、同2のうち、被告会社主張の委託契約に基づき本件(一)取引が行われたこと、同3のうち昭和五七年一二月一六日の保証金三〇〇万円を除き、被告会社主張のとおり原告栗崎が保証金を預託したこと、同4のうち被告会社主張の委託契約に基づき本件(三)(四)取引が行われたこと、同5のうち、被告会社主張のとおり原告阿部が保証金を預託したことは、いずれも当事者間に争いがない。

その余の請求原因は、本訴請求において認定のとおり、これを認めることができる。

二  抗弁

被告高橋、同山田、同飯村及び中川らが、被告会社の業務として本件(一)ないし(四)取引をするにあたり、その勧誘から取引終了に至るまでの一連の行為が全体として、いわゆる客殺しの詐欺的商法というほかなく、不法行為に該当することは本訴において認定したとおりである。したがつて、反訴請求の本件清算金もまた、詐欺的商法によつて生じたものにほかならないから、自らにかかる違法な行為をしながら、これを原告らに請求することは信義誠実の原則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。

よつて抗弁は理由がある。

三  結論

以上のとおりで、反訴請求は理由がない。

(総結論)

以上の次第で、本訴請求は前記認定の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求及び反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤井敏明 裁判官 藤田昌宏)

裁判長裁判官角田清は転補のため署名押印できない。

(裁判官 藤井敏明)

《当事者》

原告(反訴被告) 栗崎幸治 〈ほか一名〉

原告ら訴訟代理人弁護士 松川正紀 同 滝沢昌雄

右両名復代理人弁護士 岩本雅郎

被告(反訴原告) エー・シー・イー・インターナショナル株式会社

右代表者代表取締役 高橋淳介 〈ほか三名〉

被告ら訴訟代理人弁護士 竹内 清

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